創造と科学の功罪を問う NTLiveフランケンシュタイン

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NTLiveのフランケンシュタインの上映がかかったので観てきた。NTLive観るようになったのが最近なのでちょこちょこ過去作品を再上映してくれてありがたい〜〜!

本当はベネディクト・カンバーバッチ(以下BC)怪物版もジョニー・リー・ミラー(以下JLM)怪物版も観たかったけど、スケジュールの都合で今回はBC怪物版のみ鑑賞。

本編前にダニー・ボイルやキャストのインタビューがあるんですが、BCが怪物を演じるにあたって子どもやリハビリしてる方の動きを参考にしたと言っており、興味深かった。身体を意識して使うこと、というのを本編冒頭10分ほどの怪物誕生シーンで観客はみてるわけですが、まあ引き込まれること…。手足の関節の向き、重心のかけ方、今初めてこの大地に生まれ落ちましたか?とこちらに思わせるほどの演技に息をのんでしまう。BCの怪物並みの演技力よ…

本作は役を入れ替わり演じることで作品としてより面白くなる相乗効果を狙ったそうなんですが(本人たちもセリフの口調が似てきたりすると言ってた)、ダブルキャストじゃなくて入れ替わりというのが面白いなと思う。BCフランケンシュタイン役も絶対似合うだろうし、動画でちらっと観たJLM怪物版も迫力あった。JLMの怪物も相当見応えありそうだしもう1つのバージョンもみたかったな〜

さて、ストーリーについて。
原作は読んだことなかったんですが、ホラー漫画家の伊藤潤二先生が原作を元にコミカライズしたものを読んだことがあったので内容はうっすら覚えてた。

 

こちらも原作寄りでおすすめ!怪物が怖い!



ざっくり説明しておくと野心家な科学者ヴィクター・フランケンシュタイン(設定だと大学生なんだ…?!)が死体を繋ぎ合わせた怪物を創造し命を吹き込んだものの、怪物の誕生を前にしてあまりの恐ろしさに逃げ出し、再会した時には知性を持った怪物が創造主に反乱してきた…みたいな話なんですが。(ざっくりにも程がある)

“新たな生命を創り出す”という禁忌について描かれた200年前の古典的作品でありながら現代まで映画や舞台になってるのは、やはり原作の完成度の高さだろうなと今回観てて感じた。
あと創造主であるフランケンシュタインと被創造物である怪物の独特な関係性もこの作品の魅力のうちの1つですね。互いの存在を憎み合っているのに、互いが唯一の理解者であり、そして世界でたった2人この秘密を共有してる彼らにしか分からない感情。そこにたとえ正しさが伴っていなくても、唯一無二の関係性が物語のラストまで私たちを揺さぶってくるという…
科学や哲学など様々な問いかけとは別の、物語におけるキャラクターの関係性という観点での魅力があるなと思う。

メインキャラクターの1人である怪物はその見た目から人々に嫌われ孤独感に苛まれるんだけど、盲目の博識な老人との出会いでそれが大きく変化するんですよね。外見によって虐げられない存在との邂逅を経て、言葉を知り感情を学び知性を得る。老人との出会いや読書を通じて怪物に湧き上がる感情が“人間と同じように幸せになりたい”なんだよな…はたしてその感情を抱くことが彼にとって幸せなのか、観ながら考えてしまう部分ではあるけれども。

その一方でもう1人のメインキャラクターであるフランケンシュタインは家柄もよく婚約者もいるという状況ながら、取り憑かれるように怪物を創造していたことを考えるとよっぽど怪物よりも狂気的な気もするんだよな。ただ、生命倫理に背き怪物を生み出した故の苦しみや孤独感はある種、盲目の老人を除いて誰からも受け入れられなかった怪物と似ている部分でもあるかもしれない。

人を人たらしめるものはなんだろう、怪物にも身体があり、感情があり、人との違いはどこにあるんだろうかという問いに対し、臨場感をもって今一度向き合わされる体験をできるのは本作ならではだと思った。

 

それからNTLiveはセットも毎回凝ってて大好きなんですが、今回も例に漏れず舞台装置だけで見応えありでした!
序盤で機関車出てきたり、上から木の板降りてきたなと思ったら湖にかかる橋になったり。結婚式で客席の通路を花道にしてたのもよかったなあ。あとはなんといってもセンター天井にある無数の豆電球が美しかった。


f:id:bcis014:20220825171022j:image汽機関車出てくるところ結構びっくりした

上質な演劇を映画館で気軽に楽しめる良さがあるのでNTLiveの話できる人がこれからも増えるとうれしいな。