戦禍で紡がれる夢と愛 ミス・サイゴン

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8/31に東京公演が千穐楽を迎えたので、初ミス・サイゴンの感想を。まずは厳しい状況の中頑張ってくださっていたカンパニーの方々にお礼を言いたい…!

観劇したのは7月と8月の2回。2020年中止になった時にニュースをみていたのもあり、2022年の観劇にはまったこのタイミングで再演が決まってチケットを取れたのはうれしかった。そして30周年おめでとうございます!

作品を観るにあたりストーリーの概要は把握してたんですが、今回が人生初サイゴンだったのでラストはそこで終わるんだ…!と衝撃でした。むしろ初見で驚かない人の方が少なそう。ラストを観てから命をあげようを改めて聴くとより意味合いがずっしりと感じられる…
ただ、こういう歴史があったことや、戦争に翻弄された市井の人々の存在をよりリアルに感じられたのは観劇したからこそかなと思います。

30年続くだけあってどのシーンもセットは豪華!オペラグラスで細かく観たいのに目が足りないくらい隅から隅まで凝ってる。キャストもたくさんいて華やかだしバンコクの街並みとかドラゴンダンサーのくだりとかは見応えあったなぁ。

中でもサイゴン陥落の舞台の使い方なんて圧巻だし、なんといってもヘリコプターのシーン。あれ実物大のサイズ感ですよね?音響、ライトの使い方も相まって本当に帝劇にヘリコプターが降り立ってる気持ちになった。生オケも最高〜!作品に奥行きが出るし迫力が桁違いで、音楽の重要性をひしひしと感じる。
舞台観劇はこういう演技・美術・音楽などのプロたちの集大成を生で浴びられるのが魅力の1つですね。

今回キャストスケジュールとにらめっこしてなんとか2回観劇してみたんですが、同作品でもそれぞれ印象が異なっていて発見が多かったのでメモです。

昆キム×海宝クリス×伊礼エンジニア

  • 昆キム
    序盤本当に幼い少女のように見える。世間をまだ知らない清らかな少女の雰囲気が歌や表情から出てた。でもタムが出てきた瞬間(子供という存在ができて)から変化が出てくるのが面白い!母性というか優しいんだけど、力強さもあり。子守唄聴いてるような気持ちにもなるし、力強さに圧倒されそうな時もあるのが不思議。クリスに会いに行く前の回想シーンが辛い。海宝さんと共演も多いからか歌の相性がいい印象だった。
  • 海宝クリス
    予想してたけど爽やか!最初ストーリー読んだときはクリスという男にあまりいい印象を抱けず、いやいやこの男は…!と思ったんだけど、海宝クリスを観ていい意味でがらりと印象が変わった。彼もまた戦争に翻弄されて、誠実さと弱さと辛さの間で揺れ動いていたんだろうなと思わされたんだよね。あの瞳で愛の言葉を伝えられたキムが何年も待ってしまうのもなんかわかる気がする。
  • 伊礼エンジニア
    「生き延びたけりゃ(What A Waste)」とても似合う!伊礼さんにやっと笑う時に片方の口角が上がるの最高。もっとエンジニアってしたたかさ100%みたいな男だと思ったけど、伊礼エンジニアは軽薄さも持ちつつ、わりと人情味あるよね。なんだかんだタムかわいがってそうなとこも好き。派手好き、アメリカンドリーマーだからこそ舞台上でも他のシリアスめなキャラたちとの濃淡はっきりしててアクセントになる。伊礼さんご本人もハーフで設定に合ってるなと思った。
  • 上原ジョン
    軽くチェックしてたくらいだったので想像以上によかった!最初はジョン女癖悪いな…と思ってたんだけど、後半になると力強い歌声に魅せられ、クリスに対する思いやりも感じられた。後悔と責任を歌ったブイ・ドイがとても印象的。中央のモニターに子供たちの映像が出るのが目に焼き付いてる。
  • 知念エレン
    強い女性だった。子供だったら、と他人と夫の子供を育てようと思える肝。エレンって戦争帰りの夫が後遺症に苛まれるのを横で優しく支えてくれてた存在で、彼女に非はないわけで。(もちろん誰に非があるわけでもなく戦争が一番悪いんだけども)キムとは対照的な存在としての描かれ方がうまいなと感じた。
  • 西川トゥイ
    あまりチェックしてなかったけど、執念と愛の男って感じでよかった。彼は結婚の約束してからずっとキムのこと好きだったわけである意味一途の権化みたいな男なんだけど、それが執念にもなってるんですよね。一方で彼が倒れた時に部下が駆け寄って悲しむ様子を見る限り、慕われてたんだろうなとも思ったし。彼もまた戦争がなければこんな風にならなかった、キムとの未来もあったのかなとか少し思った。


高畑キム×サンウンクリス×市村エンジニア

  • 高畑キム
    他作品で歌ってる時やTVの時よりもさらに抑揚をつけて歌ってる感じがした!普段は力強さが出るタイプの歌い方だなという印象があってそれが魅力の一つでもあるんだけど、今回は少し歌い方を変えてたというか、シーンによって調整してるような感じ。意識して変えてるのかな。あえて抑え気味にすることで、キムの脆い部分と芯の強い部分の強弱がくっきりとみえて、より一層キムという人間の人生を感じられた。
  • サンウンクリス
    鍛えてらっしゃるからか守ってくれそう感が強い。海宝クリスが儚さ強めなのに対して、サンウンクリスは実直さ強めな印象だった。彼は感情がグッと高ぶるシーンで特に迫力あったので、ラストの慟哭が響いてきた。あと2回目で思ったけど神よ何故?(Why God Why?)はわりと序盤なんだな。転調するところが好き。クリスって演じる人によって少しずつ印象が異なるのが興味深くて、複数回観に行くとよりそれを感じた。
  • 市村エンジニア
    さすがの貫禄で遊び心ありありのエンジニア。アメリカンドリームを腹の底に滾らせつつ、いってきま〜すの軽い感じで笑顔になっちゃったし、くそっ!の一言も似合うのが不思議だよねえ。アメドリの歌い方がセクシーだしどんどんテンポアップしていく曲調に合わせてこちらの気持ちも上がる。カテコでも投げキッスしてておちゃめだった。まさにエンジニアの化身だなあと思う。
  • 上野ジョン
    上原ジョンと印象が全く逆で面白い。語りかける系だった。ためて歌う感じで、歌詞のひとつひとつがこちらに話しかけるようなニュアンスなんだよね。彼がしてきたことへの罪深さや後悔が歌に表現されていた。ブイ・ドイやっぱグッとくるというか引き込まれる曲だなあと思った。

※2回とも知念エレン、西川トゥイだったのでこちらは省略

この作品で誰に一番感情移入できるかと言われたら正直難しいところでした。観劇するタイミングによっても変わりそうだし、5年後10年後に観たらまた違う感想になりそう。

戦争って正しさが機能しなくて、時代背景も1970年代なので今を生きる私たちにとっては当時の倫理観との差に驚く部分もあるなと思うんだけど、そこを含めてもサイゴンを上演する意味はあるかなと。

Welcome to dream landから始まるエンジニアの夢、キムとクリスの愛、タムという存在、戦争に翻弄されながらも紡がれる彼らのまさに夢と愛の話。それがミス・サイゴンという作品の魅力なのかなと知ることができた2022年の夏でした。